伊勢の歴史を夢とロマンで紐解く小説家・外城田川忍氏を取材!
2020/08/06
地域の古き時代と歴史上の人物をリアルに描くファンタジー
伊勢周辺の史実を基にした歴史小説を執筆している外城田川忍氏。
これまで、伊勢神宮への子ども達の奉納舞と、斎王を題材にしたデビュー作「鳥名子舞」、
かつて玉城町田丸地区にあった遊郭を舞台にした「勝田街山壱楼」、
そして大岡越前守と徳川吉宗との出会いを描いた最新作「大岡越前守ビギニング」を今年の2月に出版。
この地域の小説を書こうと思ったきっかけや、元新聞記者という経験が活かされた取材と文章表現、故郷への想いなどを取材しました。
外城田川氏がデビューしたのは、2年前の平成30年。
実際に、地域の人々や遺跡、文化施設を取材し、史料や古文書を読み解いてヒントを得た物語は、
過去や現代に実在する人物や地元の名所が登場し、何ともリアリティーがあり惹き込まれる小説です。
まるで実際の現場を俯瞰しているかのようなレポート風の描写は、元新聞記者の外城田川氏ならでは。
そして、全ての伏線が、勢いよく最後に繋がるドラマチックなストーリー展開が絶妙です。
また、記者時代のご自身の経験(?)や、実際過去に取材したスポーツ選手の名言を織り交ぜている
ところも、現実世界との繋がりが感じられる面白さへと繋がっています。
新聞記者から小説家へ 故郷への想い
地元の伊勢高校を卒業後、東京の早稲田大学商学部に進み、
将来は公認会計士や政治家秘書を目指していたそうですが、
周りの就職活動に影響され、たまたま受けた産経新聞社に内定。
社会経験のつもりで入社したそうですが、記者の仕事がものすごく楽しかったそうで、
そのまま定年まで産経新聞社で活躍されました。
配属されたのは、サンケイスポーツ紙で、熱意たっぷりに取材する外城田川氏の想いが伝わり、
多くの選手が心を許して話してくれるようになったといいます。
記者時代に培ったその取材力と魅力溢れる人間性は、現在の取材・執筆活動にも息づいているように感じました。
小説を書くようになったのは、定年後。
伊勢志摩の歴史について、住んでいた頃はそこまで興味がなかったそうですが、
東京で暮らすうちに、伊勢は江戸時代から日本人の憧れの聖地であり、日本一の観光地であるということを実感したといいます。
「伊勢志摩は、色んな偉人が生きていた土地であり、ここには沢山の物語がある」と感じたそうです。
そんな時、親交のある玉城町長から、1,400年以上前の神宮奉納舞である鳥名子舞(となごまい)を復活させたという連絡があり、
伊勢へ帰ってきた外城田川氏。氏の家系は、鳥名子組といって、先祖は明治まで代々鳥名子舞を踊っていたそうです。
「せっかくだから帰郷して、自分が経験してきた『書く』ということで、故郷へ恩返ししたい!町興しをしたい!」
と一念発起。地元の玉城町にある「外城田川」から名前をとって、小説家として活動することに。
▲取材メモ。常に持ち歩いて、聞いたことや気づいたことなど、すぐにメモするそうです。
現場取材を通して、想像がどんどん膨らむ楽しさ
小説内の描写が何ともリアルに感じるのは、外城田川氏が実際現場に何度も足を運んで、自分の目で見て聞いたからこそ。
興味をもったことを、芋づる式で調べる中で、ひらめいたり、今までになかった面白い仮説が、
次々と裏付けされていく過程がとても楽しいといいます。
「100取材しても、書くのは1つか2つ。取材自体が楽しいので、苦労でも何でもない」と話す笑顔が印象的でした。
また、小説の登場人物は、外城田川氏が実際に地元の喫茶店や、記者時代に出逢った人々をイメージして書いているため、
しっかりとした人物描写がよりリアルに感じられます。
歴史上の人物を調べて、同じ時代に同じ場所で生きていたことがわかれば、
「ひょっとして?!」という楽しい想像が次々と膨らむそうです。
「史実は曲げずに、後の肉付けは、小説ならではの夢やロマンを描きたい!」と語る外城田川氏。
また、魅力ある小説にする工夫として、記者時代に先輩から教わった「耳かき一杯の毒を入れること」を大事にしているそうです。
スパイスのように少しだけ入っている面白いエピソードが、読者をクスっと笑顔にします。
▲デビュー作「鳥名子舞」と、二作目「勝田街山壱楼」。物語のキーアイテムを入れた表紙デザイン
「伊勢ってすごいんや!」地元の子どもたちにそう思ってほしい
「小説を通して、地元の知られざる魅力を知ってほしい」という想いで、
自身の著書を、伊勢市内の中学校と出身である玉城町の中学校、図書館等にも寄贈したそうです。
外城田川氏の小説は、堅苦しくなく、子どもたちにも読みやすいように書かれています。
また、きちんと史実に基づいているため、地域の歴史を楽しく学べると好評です。
難しい言葉や漢字が出てきたら、辞書を片手に読むのもよし、とのこと。
実際に外城田川氏も、小学生の時に「宮本武蔵(著・吉川英治)」を読んだ際には、
わからない漢字は飛ばしながらも、大筋は覚えているといいます。
また、高校生の頃は、授業に出るよりも図書室で本を読んでいる方が多かったというほどの読書好きに。
その頃に読んだ「日本書記」の斎王の自害の話が、50年後に執筆した小説(「鳥名子舞」)に活かされました。
「伊勢の子どもたちにとって、自分が住んでいる所がすごい所だということをわかったり、
将来に繋がる何かのきっかけになったら嬉しい。『外城田川先生はこう書いているけど、僕はこう思う!』というような
色んな発想をもった子が出てきたら嬉しいな!」と語ってくれました。
そんな色んなロマンや夢が、実際に現実を変えるきっかけになるかもしれません。
また、生きている現代のことだけでなく、過去の先祖に思いを巡らせることで、より深い感受性・人間性をもった子が育つと感じました。
「そうだったらいいな!」「ありえないけど、ありえるかもしれない!」
そんな感覚を大事に、感性豊かな子供たちが育ってくれたら嬉しいですね。
これからも、ワクワクドキドキしながら、楽しんで書いていきたい!
もうすぐ71歳を迎える外城田川氏ですが、執筆ペースは1年に1冊という異例の速さで3作を発表。
また、次回作に向けて既に取材と執筆を進めているそうで、今後にも注目です。
「同じ時代に、同じ地域に生きていた歴史上の人物なら、いくらでもドラマチックでダイナミックなエピソードが書けるよ!」
と屈託のない笑顔で、目を輝かせる姿がとても素敵でした。
伊勢志摩地域の知られざる魅力に惹き込んでくれる外城田川氏の小説をぜひ読んでみてください!
▲山田奉行・大岡越前と、紀州藩主・徳川吉宗の出会いを描いた、最新刊「大岡越前守ビギニング」
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外城田川 忍(ときだがわ・しのぶ)
昭和24年度会郡玉城町生まれ。
昭和47年に早稲田大学商学部を卒業し、
産経新聞社に入社。サンケイスポーツなどを経て、
平成15年に産経新聞社東北総局長に就任。
平成21年に定年退職し、28年に帰郷。
平成30年8月に、デビュー作「鳥名子舞」(伊勢新聞社)を出版。
令和元年5月に「勝田街山壱楼」(伊勢新聞社)を出版。
同年9月に三重県HP「みえの文化びと」に登録、掲載される。
令和2年2月に「大岡越前守ビギニング」(伊勢新聞社)を出版。